✦ 現在の実際の発音を下の3つの典型例でお聞きください。最初の2つは “Mihi autem nimis” というグレゴリオ聖歌です。ひとつめは29秒から,ふたつめは35秒から聞こえる最初のことばが mihi。3つめはベルディが作曲したレクイエムのスカラ座公演のもので,33分28秒から48秒あたりまでに mihi quoque spem dedisti という一節が2回聞こえます。
✦ もうひとつの excelsis ですが,これはミサ曲の Gloria の最初の “Gloria in escelsis Deo.”(高いところ[天]において神に栄光があるように)や Sanctus の “Hosanna in excelsis.”(ほぼ同じ意味)に出てきます。ex [エクス]の部分はもともと接頭辞なので,きちんと言おうとすれば ex-celsis と分けて[エクスチェルスィス]になります。でもそれだとすこし発音しにくいので,実際にはイタリアでは多くが「ス」だけを省略して[エクチェルスィス]と発音します。
ほとんどの解説書にも書かれている[エクシェルシス]は相当崩れた発音か,なまった発音です。意識してこのように言う人はイタリアにはまずいないでしょう。標準的なイタリア式の発音とは絶対に言えません。
「エクシェルシス」と読ませるのはやはりフランスのソレム修道院のやりかたです。でも,なぜソレム修道院がこんな変な発音を選んだのかは調べた範囲ではわかりませんでした。フランス語に[チェ]の音がないことと関係するかもしれません。
✦ 現在の実際の発音は下の3つのYoutube動画で典型例をお聞きください。ひとつめは独唱で[ス]抜きの[エクチェルシス]。2つめはバチカンのサン・ピエトロ大聖堂で現在の教皇がとりおこなっている実際のミサの一部で(4秒から:2019年のクリスマスのもの),朗唱者はしっかり[エクスチェルシス]と言っています。3つめはドニッゼッティのミサ曲で(10分0秒から8秒にかけて2回の in excelsis),イタリア人のソリストたちはみな[ス]抜きの[エクチェルシス]と言っているようです。
(4) アクセントがある母音の e と o: イタリア語の標準発音ではたとえば buono(良い)の o は口の上下の開きが大きめで,ora(時間)の o は口の開きが小さめというように,単語による決まりがあります(これも地域差がありますが)。イタリア式ラテン語ではそういう決まりはなく,傾向としてはいつも広めです(くわしくは「調査の詳細」5.2.5節)。