❏ 単語と単語のつなげ方

単語のつなげ方の規則を説明します。日本のどの解説書にも書いていないのですが,標準である本当のイタリア式の発音にするにはこれが必須です。

ルールは簡単で,フレーズの切れ目以外では,単語ごとに言いなおさず,音をつなぐということです。

フレーズの切れ目とは,①歌詞に句読点がついているところ,そして,②音楽の流れとしてくぎりになっているところです。

【注意1】ただし,句読点がついていても例外的にフレーズの切れ目として扱わないことも,ときにはあります。
【注意2】フレーズの途中で息継ぎをする必要がある場合は,意味の切れ目で息を継ぎ,音はつなぎません(合唱でのいわゆるカンニング・ブレスは別)。
【注意3】et(そして)ということばや,前置詞の ab(〜から・により)ad(〜に)cum(〜と)ex(〜から)in(〜へ・で)は,その直後で切ることはありません。


例1 Gloria in excelsis Deo. [グリア イ チェルスィス オ]

 上で太字にした「ロ」「チェ」「デ」はアクセントがある箇所です。
 この文はラテン語によるミサで歌われる Gloria(栄光の賛歌)の最初のもので,「高いところ(天)において神に栄光があるように」という意味です。グレゴリオ聖歌ではこの文全体でひとつのフレーズになりますが,ミサ曲では音楽的にさまざま切り方をしているものがあります。
 もし作曲家が Gloria という単語の最後で音楽の流れを切っているなら,そこまでがひとつのフレーズで,excelsis の後で切っていれば,そこまでがひとつのフレーズです。
 しかし,in(前置詞「〜に」)excelsis(高いところ)は文法上の結びつきが強いので,その間で音楽的に切っていることはありません。息継ぎもしません。ですから,in の最後と excelsis の最初をつなげて,あたかも inexcelsis と書いてあるように[イネ...]とつなげて読みます。[インエ...]ではありません。これが「単語ごとに言い直さず音をつなぐ」ということです。
 典型例として,「発音の注意点(1)」でも使わせていただいた動画の最初の部分をもういちどお聞きください。


例2 et in terra pax hominibus [エティッラ パクニブス]

 例1のつづきです。このあとさらに bonæ voluntatis とつづいて,全体で「そして,地上ではよい心を持つ人間たちに安らぎがあるように」という内容のひとつの文になります。
 ここでは最初の et(そして)の最後と次の in(前置詞)をつないで,あたかも etin と書いてあるかのように[エティン]と読みます。et は「そして」という,次につなげるための単語ですから,そこで切ることはありません。
 もうひとつ,pax hominibus(安らぎが人間たちに)は,その間で音楽的に切れていないかぎり,あたかも paxhominibus と書いてあるようにつなげます。h の字は無音で,h がないのと同じですからクソニブス]です。もし途中で音楽的に切れていればクス / オニブス]
 典型例として,上の例1の動画の9秒からをお聞きください。


例3 Gratias agimus tibi [グツィアッ ジムス ティビ]

 やはり Gloriaの一節です。このあと propter magnam gloriam tuam とつづいて,全体で「あなた(神)の大きな栄光ゆえに私たちはあなたに感謝をする」というひとつの文になります。
 注意点は Gratias agimus(感謝をする)です。その間で音楽的に切れていなければ音をつなぐのですが,ここでは Gratias の最後が s です。語尾の s を次にある母音で始まる単語につなげる場合は,促音を入れる感じで s を長く言いながらつなぎます。つまり,あたかも Gratiassagimus と s がふたつ書いてあるかのような形でつなげるということです。ですから[グツィアジムス]。見にくいので,上では「ッ」の後で分けました。促音を入れずに[グツィアジムス]と言う人もいます。もし途中で音楽的に切れていれば[グツィアス ジムス]
 促音が入るように言っていることがわかりやすい音源として,先ほどの例1の動画の3分15秒でもよいのですが,もっと明瞭なのが下の動画です。プッチーニのミサ曲ですが,44分5秒から16秒までに Gratias agimus が2回出てきます。[グツィアッ ジムス]と聞こえると思います。


例4 Qui sedes ad dexteram Patris, [クウィ ッ サッ クステラム トリス]

 これも Gloria からですが,この部分を欠くミサ曲もあります。「父(なる神)の右にあなたは座る」というひとつの文(正確には関係節)で,このすこし前にある「ひとり息子であるイエス・キリスト」の説明として使っています。
 まず sedes(あなたは座る)ad(前置詞「〜に」)ですが,もしその間で音楽的に切れていれば別ですが,そうでなければ例3の規則どおり,あたかも sedessad と書いてあるようにつなぎます。
 そしてこの ad(〜に)は前置詞ですから,次の dexteram(右)との文法上の結びつきが強いので,その間で音楽的に切ることはありません。そのまま addexteram と書いてあるかのようにつなぎますが,このように語尾の子音と次の単語の最初の子音が同じ場合は,そこに促音を入れる感じで言います。
 さらに,その前の sedes ともつながるので,全体であたかも sedessaddexteram と書いてあるかのようにッサックステラム]
 典型例として,上の例1の動画の1分56秒から2分5秒までをお聞きください。

 ミサの Credo の最初の方にある factorem coeli et terrae の最後の2語も,あたかも etterreと書いてあるようにつなぐので[...エッルルレ],やはり促音を入れる感じで。
 同じく Credodescendit de coelis のように,語尾が t で,そのあとに d がつづく場合も,音楽の切れ目がないかぎり descendiddecoelis とつないで[デシェンディチェリス]
 それぞれの典型例として,先と同じ人による次の動画で14〜19秒と1分33〜38秒をお聞きください。

 ただし,やはり CredoEt incarnatus est de Spiritu Sancto. の下線部は,そこに音楽としての切れ目があることも多いと思いますが,つなぐ場合でも t の前に s があって,促音を入れにくいので,そのまま[エティンカルトゥッ デ](この[ト]ははっきりした[ト]ではなく,[タ]か[トゥ]との間ぐらいの感じの,あいまいな音色の母音をごく軽く入れる感じで言う)。あるいは t を省略してスデ]と言ってしまうことも少ないないようです。


曲全体で具体的にどのようにつなげばよいかは,「宗教曲の発音」をごらんください。