✦ ミサ曲など宗教曲の教会ラテン語は,イタリア式で発音するのが標準になっています。
✦ これは,1912年に当時のローマ教皇ピウス10世がカトリック教会のミサで歌うグレゴリオ聖歌の発音として推奨したことによります。
✦ イタリア式の発音を解説した書籍や説明文書が,英語のものも日本語のものもさまざま出ています。
ところが,そのほとんどは,グレゴリオ聖歌の研究に大きな貢献をしたフランスのソレム修道院が書いた説明を直接・間接にもとにしていると思われ,実際にイタリアで主に使われている本当のイタリア式とは少し違っています。
また,不思議なことに,イタリア式であるために必須の「単語と単語の間で音をつなぐ」ということが従来の書籍類ではまったく説明されていません。
✦ とは言っても,そんなこまかそうなことはどうでもいいという気持ちを持つ人が大半だろうと思います。CD などで聞く演奏でも「なまった」発音がたくさん聞かれます。それに,合唱の場合は指揮者や指導者の指示が絶対なので,「本当」を知ったところで意味がないと思う人もいるでしょう。
✦ でも,みなさんが英語の歌を歌うときは,すこしでも「なまり」をすくなくして,本当の英語の発音っぽく歌いたいと思うのではないでしょうか。あるいは,本当はこうだということも一応知っておきたいと思うのではないでしょうか。
✦ ここに書いているのは実際のイタリア式のラテン語の発音です。演奏の現場ではそれまでの経緯や慣習などさまざま事情があると思いますし,指揮者や指導者の指示にもちろんしたがわないといけませんが,指揮者や指導者の方でも実際のイタリア式についてご存じないことはすくなくないと思います(すくなくとも情報として実際はこうだということを,指揮者や指導者の方々にも知っていただければよいのですが)。
✦ そういうわけで,私が説明する内容は,書籍として出ている『ミサ曲・ラテン語・教会音楽ハンドブック』『レクイエム・ハンドブック』『すぐに役立つ合唱ハンドブック』『カトリック聖歌集』,そして数ある他のホームページの説明とは違う点があります。
でもそれは,さきほど言ったピウス10世より少し前の1903年から2021年までのさまざまな録音・録画資料を調査し,不完全な点はあるかもしれませんが,音声の研究という観点から分析した結果にもとづいたものです。「『本当』の」ということばをこのページのタイトルにつけたのはそのためです。
調査の結果について詳しいことを知りたい方は,上のメニューから「説明の基礎とした研究」をごらんください。
✦ ところで,ドイツの作曲家が書いたミサ曲はドイツ式の発音で歌うのがふさわしいと言う方もいます。
でも,日本にあてはめて考えるとどうでしょう。源氏物語や司馬遼太郎の作品を朗読するときに,読む人が関西の人間ならともかく,それ以外の人が,著者が関西の人だからという理由でその作品を関西式の発音で読む必要があるでしょうか。ふつうは今の標準発音である東京式で読むでしょう。ですから,ドイツの作曲家が書いたミサ曲でも,日本で歌う場合は今の標準のイタリア式発音で歌えばよいと私は思います。