❏ ミサ曲の歌詞の読み方と,単語ごとの訳

 ミサ曲(通常文)のラテン語の発音を,標準であるイタリア式の平均的なところでカナ書きし,単語ごとの訳をつけてみました。
 演奏に使う発音がすでに決まっていて練習を始めていらっしゃる場合は,発音についての以下の説明は参考ということでごらんください。


もくじ

❏ 歌詞の読み方と訳の見方について
❏ Kyrie
❏ Gloria
❏ Credo
❏ Sanctus - Benedictus
❏ Agnus Dei



❏ 歌詞の読み方について
さいわいなことにイタリア式のラテン語の発音はカナでだいたいのところを書きあらわすことができます。ただ,細かい点でいくつか注意が必要ですので,くわしくは上のメニューから,または「こちら」で「文字と発音の対応表」をごらんください。

実際の演奏を聞くと,歌う人(団体)によって,あるいは同じ人(団体)でも歌うたびに発音がすこし違うことがあります。そうした個人差についても「文字と発音の対応表」をごらんください。

ここではグレゴリオ聖歌として歌われる場合の一般的なフレーズの切れ目ごとに改行し,単語ごとに分けてカナをふっていますが,ミサ曲ではことばの繰り返しなどのため,これより細かい切り方がされていることがよくあります。
 ひとつのフレーズの中は,基本的に単語ごとに切らないで続けて発音してください。本当のイタリア式発音ではこれが重要になります。特に   は音のつなぎ方に注意が必要な箇所です。1音節の前置詞や et(そして)など,独立性が低く,ふつうはその後で切ることがないことばは,カナ書きでは次の単語との間に空白を入れていません。
   *  は,曲によってそこにフレーズの切れ目を置いている場合があるので,その場合はそこで言いなおす印です。

さらに,単語としてのアクセントの記号をつけています(1音節語以外)。カナでは大きめの太字のところです。
 単語を読むときはアクセントがある母音を丁寧に,そして長めに言いますが(特に母音で終わる音節で長い),歌ではアクセントがあっても短めだったり,アクセントがなくても長い音符になっていることがふつうにあるので,ここでは長音符(ー)はつけていません。
 句読点と大文字の使い方は1962年の『ローマ・ミサ典礼書』(Missale Romanum) にしたがっていますが,合字 æ, œ はそれぞれ ae, oe に分けました。

❏ 訳の見方
単語ごとにその訳をつけています。これは,この単語はこういう意味だからこのように歌おうということがあるので,その参考のために,文全体ではなく個々の単語の簡単な説明として,ラテン語としての辞書的な意味から大きくはずれない範囲でつけたものです。教義上の正確性や正当性は追求してはいないことをおことわりしておきます。
 in terra(地で)のように前置詞とそれが支配する単語や,genitum non factum(作られたのではなく生まれたのであり)のように,結びつきが強い語連続で日本語と語順が逆になっている場合は,「で=地」「生まれたのであり のではなく = 作られた」のように書いています。「=」の後を前に続ける形で考えてください。


❏ Kyrie

イタリア式発音によるグレゴリオ聖歌としての歌唱例(Youtube にリンク)
発音がわかりやすい単旋律で無伴奏のグレゴリオ聖歌の例です。

Kýrie,
リエ r の発音法
主よ

eléison.  (Kyrie eleison. で1フレーズのことあり)
イソンフレーズ末の n の発音の注意l の発音法
あわれみたまえ

Chríste,
ステ
キリストよ(呼びかけています)

eléison.  (Christe eleison. で1フレーズのことあり)
イソン
あわれみたまえ


❏ Gloria

グレゴリオ聖歌としての歌唱例
この歌唱例では Rex caelestis を[レクチェレスティス]と発音している以外は,ほぼここに書いたとおりに歌っています(「文字と発音の対応表」の x の項参照)。
mp3音源はこちら

Glória   in  excélsis       Déo.
リア  イチェルスィス excelsis の発音について:「エクシェルシス」が日本ではイタリア式発音ということで流布しているが,それは正確には「ソレム修道院なまり」
栄光が   で=高いところ(天)     神に(ありますように) 。

Et  in térra    pax * homínibus
ティッラ ニブス
  ( * ここで切れる場合は[クス / オニブス])
そして で=地   平安が 人々に(ありますように)

bónae voluntátis.
ネ   ヴォルンティス (v の発音法)
= よい 意図の 。

Laudámus   te.
ラウムス   
私たちはほめる あなた(神)を 。(te はとても重要なことばです:以下の3つも)

Benedícimus   te.
ベネディチムス
私たちはたたえる  あなたを 。

Adorámus    te.
アドムス     
私たちはあがめる あなたを 。

Glorificámus    te.
グロリフィムス
私たちは賛美する   あなたを 。

Grátias * ágimus    tíbi
ツィアジムス ティ (語末の s の個人差について)
  ( * ここで切れる場合は[ツィアス / ジムス])
感謝を 私たちはおこなう  あなたに 。

própter  mágnam glóriam   túam.
プテル ニャム グリアム トゥアム
のゆえに  大きな    栄光の     あなたの 。

Dómine Déus,
ミネ  ウス
主よ  =  神(である)

Rex   caeléstis,
クス チェスティス
王  天の

Déus Páter * omnípotens.
ウス ポテンス
  ( * ここで切れる場合は[テル / オムポテンス])
神 父(である) = 全能の 。

Dómine Fíli       unigénite,
ミネ フィリ      ウニジェニテ
主よ   息子(である) (神の)ひとり子の

Iésu   Chríste.
イェズ クステ
イエス ・ キリストよ 。

Dómine Déus,
ミネ  ウス
主よ   神(である)

Ágnus             Déi,
ニュス              (語末の s の個人差について)
(あなた[=イエス]は) 子羊 = 神の

Fílius      Pátris.
フィリウス トリス
息子    =   神の 。

Qui      tóllis     peccáta múndi,
ウィ     ッリス  ペタ  ンディ
あなたは  取り去る   罪(複数)を = 世の

miserére            nóbis.
ミゼレ              ビス
(あなたが) あわれみたまえ 私たちを 。

Qui      tóllis     peccáta múndi,
ウィ     ッリス  ペタ  ンディ
あなたは  取り去る   罪(複数)を = 世の

súscipe             deprecatiónem   nóstram.
シペ                デプレカツィネム ストラム
(あなたが) 聞きいれてください 許しの願いを      私たちの 。

Qui sédes * ad  déxteram   Pátris,
ウィ ッ サックステラム トリス
  ( * ここで切れる場合は[デス / アックステラム])
あなたは 座っている に=右   =   父の

miserére            nóbis.
ミゼレ              ビス
(あなたが) あわれみたまえ 私たちを 。

Quóniam    tu     sólus * Sánctus.
ウォニアム トゥ    ンクトゥス
  ( * ここで切れる場合は[ルス / ンクトゥス])
…だから     あなたが ひとりだけ 神聖である 。

Tu       sólus    Dóminus.
トゥ      ルス   ドミヌス
あなたが ひとりだけ 主である 。

Tu       sólus * Altíssimus,
トゥ      ッ サティッスィムス
  ( * ここで切れる場合は[ルス / アルティッスィムス])
あなたが ひとりだけ もっとも高い

Iésu   Chríste.
イェズ クステ
イエス ・ キリストよ。

Cum Sáncto Spíritu,
クムンクト スリトゥ
とともに=聖霊

in glória                Déi  Pátris.
イングリア               トリス
の中に(ありますように) =栄光  = 神の = 父である 。

Ámen.
メン (フレーズ末の n の発音の注意)


❏ Credo

グレゴリオ聖歌としての歌唱例
ほぼここに書いたとおりに歌っています。mp3音源はこちら

Crédo     in  únum  Déum.
ド      イヌム   ウム
私は信じる  を = 唯一の ・ 神(を) 。

Pátrem  omnipoténtem,
トレ ムニポンテム
(である神)を = 全能の

factórem                    caéli  et  térrae,
ファクレム                   チェエッッレ
(そして)作成者(である神)(私は信じる) 天の   そして 地の 。

visibílium  ómnium
ヴィズィリウ ムニウム
見えるものの すべての

et  invisibílium.
ティンヴィズィリウム
そして 見えないものの(作成者を) 。

Et  in  únum             Dóminum Iésum Chrístum,
ティヌム              ミヌム   イェズム クストゥム
また(私は信じる) を = 唯一の ・ 主を       (それは)イエス ・ キリスト

Fílium         Déi unigénitum.
フィリウム     イ ウニジェニトゥム
(そして)息子を = 神の ・ ひとり子の 。

Et  ex  Pátre   nátum
クストレ  トゥム
そして から=父  (彼は)生まれた

ánte ómnia    saécula.
アンテムニア クラ
前に すべての  時代の(前に) 。

Déum de Déo,
ウム デ
神を から出た(神を) = 神

lúmen de lúmine,
メン デミネ
光を から出た(光を) = 光

Déum vérum    de Déo véro.
ウム ヴェルム デヴェ
神を = 真の       から出た(神を) = 神(から) = 真の 。

Génitum,       non fáctum,
ジェニトゥム    ノンファクトゥム
生まれたのであり のではなく = 作られた

consubstantiálem       Pátri:
コンスブスタンツィレム トリ
本質をともにしている        父の(と)

per quem  ómnia       fácta súnt.
ペルウェ ムニア       ファクタ ント
より=それに すべてのものが 作られ・た(のだ)

Qui   própter   nos  hómines
ウィ プロプテル ノッミネス
彼は のために  =  私たち ・ 人間

et  própter    nóstram  salútem
エトププテル ストラム サテム
そして のために = 私たちの  ・  救済の

descéndit  de caélis.
シェンディッ デチェリス
くだった     から=天 。

Et  incarnátus * est        de Spíritu Sáncto
ティンカルトゥスト デスリトゥ ンクト
  ( * ここで切れる場合は[エティンカルトゥス / スト])
そして 身体をもらっ・た       により=聖霊

ex María    Vírgine:
エクスマヴィルジネ
から=マリア = 処女である 。

et  hómo   fáctus * est.
モ      ファクトゥスト
  ( * ここで切れる場合は[ファクトゥス / スト])
そして 人が でき・た (人となった) 。

Crucifíxus * étiam         pro nóbis:
クルチフィクスツィアム プロビス
  ( * ここで切れる場合は[クルチフィクスス / ツィアム])
十字架にかけられ そして       のために=私たち

sub Póntio    Piláto
スブンツィオ ピ
のもとで=ポンティウス=ピーラートゥス(人名)

pássus, ˚˚ et sepúltus * est.
ッスース エトセルトゥスト
  ( ˚˚ 句読点があるが,聖歌では続けていることが多い:続けるときは「ッスッ セト])
  ( * ここで切れる場合は[ルトゥス / スト])
苦しみを受け そして 葬られ・た 。

Et resurréxit * tértia         díe,
エトレズスィッ ルツィア ディ (resurrexit の s の個人差について)
  ( * ここで切れる場合は[レズクスィト / ルツィア」])
そして よみがえった 第3の     日に

secúndum   Scriptúras.
ンドゥム スクリプトゥラス
のとおり   =   聖書 。

Et  ascéndit * in caélum:
シェンディ ティチェルム
  ( * ここで切れる場合は[エ タシェンディト / イン])
そして のぼり  に=天

sédet * ad  déxteram Pátris.
タックステラム  トリス
  ( * ここで切れる場合は[デト / アッ クステラム])
座っている に=右    =   父の 。

Et  íterum      ventúrus  est         cum glória
ティテルム    ヴェントゥスト クムグリア
そして ふたたび やって来る・だろう        とともに=栄光

iudicáre      vívos      et  mórtuos:
ユディレ     ヴィヴォス エトルトゥオス
審判するために 生者たちを  そして 死者たちを 。

cúius régni  non  érit   fínis.
クユスニ   ノリト    フィニス
その 王国の ない=だろう = 終わりは 。

Et  in    Spíritum Sánctum,      Dóminum,
ティン スリトゥム ンクトゥム ミヌム
また(私は信じる) 聖霊を 。              (それは)主であり

et vivificántem:
エトヴィヴィフィンテム
そして 命を与える 。

qui    ex Pátre     Filióque      procédit.
ウィ  エクストレ  フィリウェ プロチェディト
それは から = 父(と)  息子と(から)     出ている 。

Qui        cum Pátre    et Fílio
ウィ       クムトレ     エトフィリオ
それ(聖霊)は とともに=父(と) そして 息子(と)

símul  adorátur
スィトゥル
いっしょに あがめられ

et conglorificátur:
エトコングロリフィトゥル
そして 賛美される 。

qui         locútus  est     per Prophétas.
ウィ       ロトゥスト ペルプロフェタス
それ(聖霊)は 語っ・ている        を通じて=預言者たち 。

Et  únam           sánctam   cathólicam
トゥナム            ンクタム カリカム
また(私は信じる) 唯一の 聖なる     普遍で

et  apostólicam  Ecclésiam.
ポスリカ ックズィアム
そして 使徒の    教会を 。

Confíteor * únum   baptísma
コンフィテオ ム バプティズマ (baptisma の s の個人差について)
  ( * ここで切れる場合は[コンフィテオル / ヌム])
私は信認する 唯一の  洗礼を

in remissiónem     peccatórum.
インレミッスィネム ペッカルム
= のための=許し    =     罪の 。

Et  exspécto         resurrectiónem     mortuórum.
クスクト        レズッレクツィネム モルトゥルム
そして 私は待ちのぞむ  復活を         =       死者たちの 。

Et vítam     ventúri      saéculi.
エトヴィタム ヴェントゥクリ
そして 生を = 将来の    =    世の 。

Ámen.
メン (語末の n の注意)


❏ Sanctus  (Benedictus 含む)

グレゴリオ聖歌としての歌唱例

Sánctus (3回繰り返し)
ンクトゥス
神聖である

Dóminus Déus       Sábaoth.
ミヌス  ウス      バオト
主は     神(である主は) 軍隊(の) 。

Pléni  sunt   caéli    et  térra
レニ スント チェリ   エッラ
満ちて=いる   天が      そして 地が

glória   túa.
リア トゥ
栄光で = あなたの 。

Hosánna    in  excélsis.
ンナ     イチェルスィス
(賛美のかけ声) で=高いところ(天) 。

Benedíctus      qui    vénit
ベネディクトゥス ウィ  ヴェニト
賛美される       者は  =  やって来る

in nómine    Dómini.
インミネ    ミニ

において=名前 = 主の 。

Hosánna in  excélsis.
ンナ  イチェルスィス


❏ Agnus Dei

グレゴリオ聖歌としての歌唱例

Ágnus             Déi,
ニュス             
(あなた[=イエス]は)子羊 = 神の

qui      tóllis     peccáta múndi:
ウィ     ッリス  ペタ  ンディ
あなたは 取り去る   罪(複数)を = 世の 。

miserére            nóbis.
ミゼレ              ビス
(あなたが) あわれみたまえ 私たちを 。

Ágnus Déi,

qui tóllis peccáta múndi:

dóna        nóbis  pácem.
ナ        ビス  チェム
与えてください 私たちに  平安を 。